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    その短刀は、房一が入つた時すぐと目を射たものだつた。そして、今の今まで、彼は絶えずその不気味な輝きをすぐ傍にしながら、わざと目に入らない風を装つていたのである。とは云へ、彼も亦こゝへとびこんだ瞬間から、一種の無我夢中だつたことは間違ひない。その刃が静かに鞘の中に滑りこむのを目にした時房一ははじめて背筋がひやりとするのを覚えた。

    「もう遅いんですよ、おぢいさん。泊つてつたらどうです」

    「何しに来た!」

    ときは房一を見ると、殆どすがりつきさうになつた。そして、口をひきつらせ、上半身を揉むやうにして訴へかけた。

    房一はズボン下を円めて魚寵といつしよにぶら下げながら、丸出しの肥つた足でぴよいぴよい河原石の上を先に立つて歩いた。

    徳次は急に目くばせをした。

    「一昨年の水で流れちやつたからそのまゝになつてるね――ずつと下にはあるが、さあ、そこへ廻ると半路はんみち以上ちがふかな」

    房一は満足げに、かへつて来た犬の頭をかるくたゝいた。

    「えゝ、まだですが――何か御用?」

    練吉と房一は、川沿ひの路を、肩を並べて自転車を走らせていた。

    「いや、いや」

    「それあ、さうだらうなあ。なんしろ広い海のこつた!――ねえ、君」

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